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その情報、AIに入れて大丈夫?——「学習される」の正体と、自分のルールの決め方

AIの講座をしていて、いちばん多く聞かれる質問があります。

「入力した内容って、学習されちゃうんですよね?」

聞いてくださるのは、たいてい会社を経営されている方や、お客さんの情報を扱う仕事の方です。使ってみたい気持ちはある。でも、うっかり社内の資料を貼り付けて、それがどこかに漏れたら——と思うと手が止まる。

とても真っ当な心配だと思います。そして、この心配で止まっている方はかなり多いはずです。

先に結論をお伝えします。私は「これ、入れて大丈夫ですか」と聞かれたとき、学習されるかどうかでは判断していません。

漏れたら困る原文は、個人向けAIに入れない。

これが私の線引きです。

名前や会社名を伏せても相談できるなら、伏せて入れる。伏せたら意味がなくなるなら、入れない。実名や実データのまま扱う必要があるなら、個人向けAIではなく、会社が認めた仕事用の環境を使う。

白か黒かで分けると、こうなります。

  • 誰の話か分からず、機密も含まない形にできる相談 → 入れてよい
  • 漏れたら本人や会社が困る原文 → 入れない
  • 仕事上、原文を扱う必要がある → 個人向けAIでは扱わない

「学習されるか」をいくら調べても、この線は変わりません。


「学習されるか」を調べても、答えが出ない理由

なぜ、私は学習されるかどうかで判断しないのか。

多くの方が「学習される」と言うとき、そこには性質の違う2つの話が混ざっています。

① 入力した内容が、AIの訓練データとして使われる

将来のモデルを賢くするための材料に使われる、という話です。多くの方がいちばん怖がっているのはこれで、「入力した契約書の中身が、他人の回答にそのまま出てくるのでは」という不安につながっています。

ここについて、私はずっとこう考えていました。

深層学習について学んだときに、画像を作るAIは大量の絵を読み込んで「特徴」だけを取り出している、と知りました。であれば文章も同じではないか。入れた情報はバラバラの養分のようになって、かなりいい加減に混ざったものが、また組み立て直されているだけではないか——と。

学習というのは実際、入力した文章を検索できる文書として棚に保管することとは違います。AIの中にある膨大な数値を、少しずつ調整していく作業です。

私の感覚では、スープに出汁を一滴垂らすようなものです。 普通にスープを飲んでも、その一滴だけを後から取り出すことはできません。AIも同じで、入力した文章がそのまま検索できる状態で入っているわけではありません。

ただし、これはあくまで私が理解するためのイメージです。モデルが特定の文字列を強く記憶し、さらにそれを引き出す質問や手法などの条件がそろうと、訓練データに含まれていた文章や電話番号などが再現されることは、研究でも確認されています。

私の感覚で言えば、ありふれた言い回しは、似た文章が世の中に無数にあるので、混ざって薄まります。でもその世界に一度しか出てこないような文字列は、輪郭が残ることがある。電話番号、住所、独自の型番、珍しい固有名詞。まさに守りたい情報が、そのまま再現される可能性はゼロではありません。

つまり、こういうことです。

「バラバラになるから大丈夫」が、いちばん守りたい情報にだけ効きにくい。

「学習したら必ず漏れる」も、「数値に変わるから絶対に漏れない」も、どちらも違います。だから私は、確率の話で安全かどうかを決めません。漏れたら困るものは、最初から渡さない。 それだけです。

② 入力した内容が、一定期間サーバーに保存され、担当者が見る場合がある

こちらは、不正利用の監視や品質の確認、会話履歴の提供といった目的です。訓練に使わない設定でも、入力内容が一定期間保存されるサービスがあります。

①を設定でオフにできるサービスもあります。仕事向けの契約プラン(法人向けプランやAPI)では、そもそも既定で訓練に使わないとしているサービスもあります。ただし、無料か有料かだけで決まるものではありません。サービス、プラン、設定によって扱いが変わります。

保存期間はサービスや契約によって違います。法人向けやAPIには、条件付きで保存期間を短くしたり、対象機能の保存をゼロにしたりできるものもあります。

でも、ここで覚えておくことは1つだけです。

「訓練に使わない」と「何を入れてもよい」は、まったく別の話です。


規約より先に「漏れたら困るか」で決める

規約や設定の確認は必要です。でも、文章を1つ貼るたびに規約を読み直すことはできません。

だから、日常の判断は先に白黒をつけます。

  • 知らない人に見られても困らない形になっている → 入れる
  • 本人、取引先、会社の誰かが困る → 入れない

個人情報、社外秘、会社の利用ルールに関わる場合は、ここから先へ進まず、仕事用の環境と社内ルールを確認します。規約は「入れてよい理由」を探すためではなく、仕事に使える環境かを確認するために読むものです。


私が決めている3つのルール

私自身が決めて、講座でもそのままお伝えしているルールです。

ルール1:他人の情報は、原文のまま入れない

自分自身の情報をどこまで出すかは自分で決められます。でも、お客さんや取引先の情報は、預かりものです。 自分の判断だけで外に出していいものではありません。

とはいえ「入れない」と決めてしまうと、AIはほとんど使えなくなります。仕事の相談は、たいてい誰かの話だからです。

そこで伏せて入れます。 実際のやり方はこうです。

  • 「株式会社◯◯の田中様への提案書」→「取引先A社の担当者への提案書」
  • 「鈴鹿市の山田さんから、外壁の見積依頼が来て」→「近隣のお客様から、外壁の見積依頼が来て」

これで困ることは、ほぼありません。AIが文章を組み立てるのに、実名は要らないからです。必要なのは関係性と状況であって、固有名詞ではない。 出てきた文章の「A社」を、最後に自分の手で本当の名前へ戻せば済みます。

ただし、名前を「A社」へ置き換えただけで、完全に匿名になったとは限りません。地域、業種、日付、珍しい出来事などが組み合わさると、誰の話か分かることがあります。名前だけでなく、その人を絞り込める情報も必要な範囲でぼかします。

ルール2:危険度は「情報の数」で跳ね上がる

ここがいちばんお伝えしたいところです。

「名前だけなら大丈夫かな」「電話番号だけなら平気かな」と考えている方は多いと思います。でも、氏名だけでも個人情報にあたることがありますし、一片ずつで見ている限り、判断を間違えます。

たとえば「山田太郎」だけなら、同姓同名が全国に何人もいます。ここに「鈴鹿市の建設会社の」が加わると、一気に数人まで絞られます。さらに「電話番号」が乗ると、もう本人に連絡が取れてしまう。

怖いのは一片ではなく、一片が集まった瞬間です。

しかも先ほどの話とつながります。**絞り込みに効く情報は、そのまま「珍しい情報」です。**つまり薄まらずに残りやすいものと、本人にたどり着けるものが、ぴたりと重なっている。

なので私は、資料を貼り付ける前にこう考えます。

「これ、何人まで絞り込めるかな」

数百人までしか絞れないなら、そのまま相談します。数人まで絞れるなら、伏せてから入れます。一人に特定できるなら、入れません。

ただし、これはあくまで私の目安です。人数で線が引けるわけではありません。 一人に特定できなくても、預かっている顧客情報として守るべき場合はあります。特定につながりそうなら、名前だけでなく、地域、取引先、日付、連絡先も必要に応じて伏せます。

なお、単体でも最初から特定できてしまうものもあります。会社のメールアドレスは、それだけで氏名と勤務先が読み取れることが多い。携帯番号も本人に直接つながります。「単体ならセーフ」ではなく、その一片から本人にたどり着けるかどうかが本当の境界です。

そして、伏せようがないものは最初から入れません。

  • マイナンバー、免許証・保険証の番号
  • 口座番号、クレジットカード番号、パスワード
  • 従業員の給与額や評価、健康や家庭の事情
  • 個人向けAIへの、未公開の契約書やまだ出していない見積の金額

伏せたら意味がなくなるものは、個人向けAIのチャット欄には入れないと割り切っています。どうしても仕事で原文を扱う必要があるなら、仕事用として契約した法人向けの環境を使い、契約内容・保存期間・アクセス権限を確認します。

ルール3:迷ったら、その場で入れない

いちばん大事なのがこれかもしれません。迷った時点で、それは入れないほうがいい情報です。

判断がつかないものを、その場の勢いで入れてしまう。入力は一瞬ですが、あとから完全に取り消せるとは限りません。迷ったら閉じて、あとで落ち着いて考える。それで失うのは数分だけです。


今日5分でできる、設定の確認

ルールを決めたら、あわせて設定も見ておきます。個人向けアカウントでは、入力内容をモデル改善に使う設定がオンになっているサービスがあります。 一方で、利用者が許可した場合だけ使うサービスもあります。

確認する場所は、だいたいどのサービスも似ています。

設定 → プライバシー、または「データ コントロール」

そこに「モデルの改善に利用する」「アクティビティを保存する」といった趣旨の項目があります。オフにできる場合はオフにしてください。

ただし、項目の名前も場所も、けっこうな頻度で変わります。 ここに「設定→◯◯→◯◯」と手順を書いても、半年後には合っていない可能性が高い。なので手順を覚えるのではなく、**「設定画面を開いて、プライバシーに関する項目を探す」**という動き方のほうを覚えてください。

そして、仕事で本格的に使うなら、仕事向けのプランを契約するのが基本です。「有料なら大丈夫」ではありません。有料でも個人向けのプランはあります。入力と出力を訓練に使わないこと、保存期間、管理者権限、外部サービスとの連携先まで確認して選びます。


じゃあ、顧客管理はどうするのか

ここまで読んで、こう思った方がいるはずです。

「お客さんの情報を入れるなと言われたら、いちばんやりたい顧客管理ができないじゃないか」

もっともです。そして私は、顧客管理こそAIが効く仕事だと思っています。だから「やめておきましょう」では終わらせません。

考え方はひとつだけです。置き場所と、渡し方を分けること。

① 名簿は、AIのチャット欄ではなく、自分の管理下に置く

お客さんの一覧は、仕事用に契約したGoogle Workspaceや顧客管理システムなど、自分でアクセス権を管理できる場所に置きます。ここが本体です。ただし、そこに置けば自動的に安全になるわけではありません。二段階認証をかける、共有範囲を絞る、辞めた人や外注先の権限を消す。ここまでやって、はじめて管理していると言えます。

AIのチャット欄は作業台であって、保管庫ではありません。作業台に名簿を置きっぱなしにしない、というだけの話です。

② AIに渡すのは、その作業に必要な分だけ

これが効きます。お礼状を1通書くのに、名簿を全件貼り付ける必要はありません。1件分の、しかも伏せた情報だけで足ります。

  • ✗ 顧客リストを丸ごと貼って「この中から優先度の高い人を選んで」
  • ○ 「半年来ていないお客様が20名。再来店を促す案内文を作りたい」

前者は、情報の数が一気に跳ね上がります。後者は、誰ひとり特定できません。文章づくりが目的なら、これだけの情報で十分なことが多いです。

③ 「集計」と「文章づくり」を分ける

顧客管理でやりたいことは、たいてい2つに分かれます。誰が対象かを絞り込む集計と、その人たちに何を伝えるかの文章づくりです。

**集計は、名簿を置いてあるツールの側でやる。文章づくりだけをAIに渡す。**この分け方をすると、AIに実名を渡す場面がほとんど無くなります。

④ 本格的にやるなら、仕事向けプランに乗る

日常的にお客さんに関わる仕事をAIでやるなら、訓練への利用・保存期間・アクセス権限が契約で明確になった仕事向けプランを選びます。それでも何を入れてもよいわけではありません。必要な分だけ渡すという原則は、契約が変わっても残ります。


この4つを守ると、顧客管理はかなりの範囲でAIに任せられます。「入れるか、入れないか」の二択で考えるから行き止まりになるだけで、渡し方を工夫すれば道はあります。


「Googleドライブだってクラウドでしょ」と思った方へ

ここまで書いてきて、こう思われた方がいるはずです。

「AIに入れるなと言うけど、Googleドライブに顧客リストを置いてる時点で同じじゃないの?」

同じクラウドです。自分のパソコンの中でない限り、どこに置いても誰かのサーバーの上にあります。

でも、同じ扱いではありません。 分かれ目は「クラウドか、そうでないか」ではなく、自分で管理できる預け先かどうかです。具体的には、この4つが揃っているかどうかで見ます。

  1. 業務利用に適した契約があるか(誰が責任を負うか決まっているか)
  2. 誰に見せるかを、自分で決められるか
  3. 必要な操作記録を確認できるか
  4. 保存期間と削除方法が決まっているか

仕事用に契約したGoogle Workspaceなどは、この条件を満たしやすいサービスです。ただし、契約プランや管理設定によって、確認できる操作記録は変わります。また、ファイルをゴミ箱へ移しただけではすぐに完全削除されず、共有相手が作ったコピーまでは消せません。

つまり、Googleドライブだから安全なのではなく、共有範囲や削除方法まで自分で管理しているから預け先にできるということです。

一方、個人向けAIのチャット欄は、保存期間や誰が見るかを自分では決められない場合があります。入力した内容がどう保存・利用されるかは、サービスと設定に従います。同じ「クラウド」でも、契約と管理の範囲が違うのはここです。

仕事向けの契約プランでは、入力を訓練に使わないことや、管理者権限、保存期間などが明確になる場合があります。Googleドライブと同じものではありませんが、個人向けのままよりは、自分で管理できる状態に近づきます。さきほど「本格的にやるなら仕事向けプランに」と書いたのは、節約の話ではなく、預け先を管理できる状態に近づけるという話でした。

最後にひとつ。リスクをゼロにすることはできません。 紙の名簿だって、金庫にしまうか机に置きっぱなしにするかで、まるで話が変わります。目指すのはゼロではなく、管理された状態です。


怖がって使わないのも、それはそれで損をしている

ここまで気をつけることを並べてきましたが、最後にひとつ。

必要以上に怖がって、まったく使わないという選択も、同じくらいもったいないと思っています。

世の中に出ている情報——たとえば公開されている法律や制度の話、一般的な文章の書き方、アイデア出し、言い回しの相談。このあたりには、秘密の情報を入れずに使える場面がたくさんあります。ここだけでも、日々の手間はずいぶん減ります。ただし、法律や制度の回答が正しいとは限らないので、最後は必ず行政機関などの一次情報で確認します。

入れてはいけない情報は、実はそんなに多くありません。 決めるべきラインを一度決めてしまえば、残りは気楽に使えます。「全部危ないかもしれない」と思っているうちが、いちばん動けない状態です。


この記事は2026年8月17日時点の各社の公開情報をもとに書いています。設定や規約は変わりますので、実際に使うときは最新の情報をご確認ください。

参考にした情報(9件)

「となりのAI」について

うちの場合はどこまで大丈夫か、は業種と、お客さんとの契約によって変わります。この記事は一般的な考え方をまとめたもので、法的な判断を代わりに行うものではありません。医療、介護、金融、教育、人事など、とくに慎重な管理が必要な情報を扱う方は、一度ご自身の状況で、専門家を交えて整理しておくことをおすすめします。

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