はじめに:雨音と高鳴る鼓動、冒険の幕開け
5月23日・24日の2日間、「HCA白子ベース」と「体操教室Brain」のコラボレーションによる特別な体験学習が開催されました。舞台は三重県、椿大神社(つばきおおかみやしろ)のほど近くに位置する「猿田彦base」。
あいにくの小雨模様で空気は少し肌寒く、湿った土の香りが漂うキャンプ場。しかし、集まった子供たちの熱気はそんな天候を忘れさせるほどでした。タープを叩く雨音さえも、これから始まる「いのち」を巡る大冒険のBGMに変わります。単なるレジャーではない、自然の厳しさと恵みを肌で感じる2日間のスタートです。
第1章:猟師の矜持と「止め刺し」の冷徹なリアル
最初のプログラムは、現役猟師の「ケイブ」と「たけさん」による狩猟ワークショップです。
狩猟免許という「覚悟」の証
猟師さんは開口一番、こう語りかけました。
「車に免許が必要なように、動物を捕まえるにも『狩猟免許』がいる。それは、野生動物は君たちが怪我をするかもしれない、命に関わるほど危険な存在だからだよ」
この「大人と子供」としての対等なリスペクトを込めた言葉に、子供たちの表情は一瞬で真剣なものへと変わりました。
0.1秒の衝撃と、歪んだ鉄パイプの記憶
実演された「くくり罠」の威力は圧倒的でした。獲物が踏んだ瞬間、わずか0.1秒でワイヤーが足を締め上げます。木の棒を使ったデモンストレーションでは、空気を切り裂くような「バチン!」という音が響き渡り、子供たちは言葉を失いました。一度かかれば、120kgのイノシシでも逃れられず、時には自らの足を引きちぎっても逃げようとするほどの凄絶な世界。
さらに衝撃的だったのは「止め刺し(とどめをさす)」道具の解説です。
- イノシシ用:首が太く防御力が高いため、重さ5kg、長さ1mの太い単管パイプで頭を10回ほど叩かなければならない。
- 鹿用:片手で持てる細いパイプ。
ケイブが見せてくれた鹿用のパイプは、何百頭もの命を奪ってきた衝撃でぐにゃりと曲がっていました。猟師さんたちが冗談めかして「鹿の呪いがかかっている」と呼ぶその歪んだ鉄の塊に、保護者の方々も思わず顔を引きつらせ、命を奪うことの物理的な重みを実感していました。
第2章:皮を剥ぎ、肉を刻む。五感で知る「食」の境界線
学びは「解体」という最も本質的なプロセスへと移ります。
目の前で「肉」へと変わる瞬間
用意されたのは、毛のついたままの鹿の後ろ脚まるごと一本。猟師さんが鮮やかな手つきで皮を剥ぎ、筋肉の繊維に沿ってナイフを入れていく様子を、子供たちは食い入るように見つめます。「生々しい」という感覚を越え、自分たちが普段食べているものが、かつて鼓動を刻んでいた「いのち」であったことを五感で理解していきます。子供たちは自分たちで包丁を握り、特製タレに漬け込むための肉を切り分けました。
驚きの美食体験
網の上で弾ける脂の音と、香ばしい匂い。自分たちで捌いた肉を口にした瞬間、驚きの声が上がりました。
- 鹿肉:「全然臭くない!」「食感はジャーキーみたいに噛み応えがあって美味しい」
- イノシシ肉:「脂が甘くて、味がすごく濃い!」「鹿よりもこっちが好き!」
- メニュー:鹿のモモ肉、イノシシハンバーグ(火加減が難しく苦戦!)、鹿のアヒージョ、ジビエカレー。
「鹿肉ってこんなに柔らかくて美味しいんだ…」 その言葉は、スーパーのパック肉では決して得られない、命への感謝が混じった深い感想でした。
フリータイムのサプライズ:オリジナルゲームで盛り上がる
お腹を満たした後のフリータイム、参加してくださった保護者の方がオリジナルゲーム「ムーンジャンプ」を持参してくれました。カメラが体の動きをリアルタイムで読み取り、ジャンプしながらどちらがより多く移動できるかを競うゲームです。
「こんなゲームが自分で作れるの!?」——自らプログラムで作り上げた作品が目の前で動く様子に、子供たちは夢中になって飛び跳ねていました。解体・BBQで「いのちの重み」を学んだ直後に、プログラミングで「創る楽しさ」を体感する。教室での学びがリアルな場所でつながった、プロクラらしい一幕でした。
食後、ケイブからある衝撃的な数字を聞かせてもらいました——。その言葉の重みは、2日間のすべての体験を終えた後に、じわじわと胸に響いてきました。
フリータイムと片付けを終えると、日帰り参加の保護者・お子様とお別れの時間がやってきました。「また次回!」という声が飛び交い、宿泊組の子供たちはここから「自分たちだけの夜」へと踏み出します。
第3章:静寂の夜を照らす「知恵の灯火」
宿泊組が挑戦したのは、防災の知恵を学ぶ「アルミ缶ランタン作り」です。
構造に隠された「光の魔法」
アルミ缶に「H」の字の切り込みを入れるのですが、これには重要な理由があります。切り開いた左右の「扉」が反射板(リフレクター)となり、小さなロウソクの光を一点に集め、数倍の明るさへと増幅させるのです。切り口で手を切らないようアルミテープで保護し、針金をペンチで曲げて自分だけのフックを作ります。
電灯をすべて消した夜のキャンプ場。自分たちの手で作ったランタンに火を灯すと、そこには温かく幻想的な空間が広がりました。
「昔の人は、こうやって少しの光を大切にしていたんだね」 不便さの中に宿る知恵と美しさを、子供たちは静かに噛み締めていました。
第4章:理想と現実の狭間で——「秘密基地」の創造
2日目のメインは、70メートルもの麻紐を使い切るほどの情熱を注いだ「秘密基地作り」です。
設計図通りにいかない面白さ
まずはチームで「設計図」を書きましたが、いざ建築が始まると「全然違うものができた!」と笑い合う子供たち。机上の空論ではない、現場での試行錯誤こそが真の学びです。
- 白チーム(構造重視):2股の立ち木を柱に見立てた本格派。基地の横にはサワガニを飼う「池」まで作り、独自の生態系を構築。
- 黒チーム(居住性重視):抜群のチームワークで巨大なブルーシートの屋根を張り、雨を完全にシャットアウト。自分たちで階段や看板まで作り込むこだわり。
麻紐の結び方に苦戦しながらも、自分たちの居場所をゼロから創り上げる喜び。完成したときには「ここで一晩寝てみたい!」という声が至る所から上がっていました。
第5章:ブルーベリーを守るための銃声。食べることは「守ること」
BBQが終わった午後、ケイブが静かに語り始めた言葉があります。秘密基地を作り、ランタンに火を灯し、2日間のすべての体験を終えた今——あの言葉の意味が、改めて胸に迫ってきます。
ケイブが狩猟を始めたきっかけは、「殺したかったから」ではありません。
「僕はブルーベリー農園をやりたくてここに来た。でも、大切に育てた苗も野菜も、すべて鹿や猿に食べられてしまったんだ。生活を守るために、僕は銃を取るしかなかった」
この切実な「生きるための狩猟」という背景を知り、子供たちの表情が引き締まります。
ケイブの言葉を借りれば——
- 「30年で鹿は8倍、イノシシは6倍に増えた」
- 「それなのに、猟師の数はこの数十年で半分以下になっている」
- 「捕まえた命の9割は、食べられることもなく捨てられているのが現実だ」
「一番簡単にみんなができる貢献は、そのお肉を『美味しい』と言って食べてあげること。それが、巡り巡って山や農園を守ることにつながるんだよ」
おわりに:次は君も、この冒険の仲間に
イベントを終え、ある子がこう感想を述べてくれました。
「90%も捨てられていると聞いて驚いた。でも、今日みたいにみんなでお肉を食べれば、農作物の被害も減って、いい循環になると思う」
また別の子は、
「罠の力が想像以上に強くて怖かった。でも、だからこそ命をいただく責任を感じた」
と語ってくれました。
たった2日間。しかし、小雨の降る鈴鹿の森で過ごした時間は、子供たちの心に「いのちの重み」と「創造する喜び」という消えない光を刻みました。
教科書には載っていない、本物の手触りと匂い。あなたも次回の開催で、この「いのちの物語」の一部になってみませんか?
イベント・スケジュール概要
| 時間 | Day 1 | Day 2 |
|---|---|---|
| 午前 | 受付・開会式・タープ設営 | 起床・朝食作り(ご飯、味噌汁、卵焼き等) |
| 昼食 | ジビエBBQ(鹿肉の解体見学・調理) | ジビエバーガー作り(鹿パティ、ポテト) |
| 午後 | 狩猟ワークショップ(罠・銃・止め刺し解説) | 秘密基地作り(設計図作成・建築) |
| 夕方 | 温泉(グリーンホテル)・買い出し | 基地の解体・振り返り・解散 |
| 夜 | 夕食(ジビエカレー等)・ランタン作り | — |
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